■ 絵画技法の歴史
絵画の歴史は古く、それと共に技法も進歩、発展してきた。ラスコーの壁画はフレスコ画と同じ技法です。
技法は絵の具、展色剤、下地の進歩とともに歩んできた。
フレスコ画(展色剤なし、水で溶く)
未乾燥の漆喰壁に水で溶いた顔料で描きます。壁が乾燥すると色は定着します。
顔料が裸のままなので明るい発色になります。
卵黄テンペラ画(卵黄+水)12-13世紀イタリア
展色剤に卵黄を使う。水と酢で溶く。展色剤を混ぜるので、混ぜる(テンペラーレ)という意味の語源でテンペラと呼ばれた。
地は板の上に石膏を塗布したものが主だった。この絵の具だとぼかしがむつかしく、トーンはハッチングによった。
テンペラグラッサ画 (卵黄+油)ルネッサンス期イタリア
卵に油成分を添加することで、深く、輝かく画面が得られるようになった。そこから「グラッサ」と名付けた。
ボティチェルリはこの技法にこだわった。地は板の上に石膏を塗布したものが主だった。
フランドル技法 (油)15世紀前期フランドル
フランドルの画家ヤン・ファン・アイク(1390頃ー1441)によって油彩画技法が確立されました。
下塗りにはテンペラグラッサに似た油成分を含むテンペラで描かれ、油絵具はグラッシで塗り重ねられました。
明るい部分は下地の白さを生かし、暗い部分を重ね描いた。
地には白亜が用いられました。
フィレンツェ派技法 (油)(卵黄+油)15世紀末 イタリア・フィレンツェ
画面にテンペラ画と油絵がパッチ状に混在する技法です。
テンペラ発色を生かした明るい表現や、油絵具のグラッシの下層の明るい部分などはテンペラです。
地は板の上に石膏を塗布したものが多く見られます。
ベネチア派技法 (油)16世紀~ イタリア・ベネチア
フランドル技法がイタリアにハイ入り、フランドル技法のテンペラの下塗りから油絵具による下塗りへと代った。
ティツィアーノは褐色白色で下書きをし、明るい部分は不透明絵の具で厚く塗る。
暗い部分は薄く仕上げたそしてその上を透明絵の具で整える。
暗い下地のベネチア派は、乾燥とともに透明化する油絵具により、下地が透けて見えていまうことがある。
支持体も板からキャンバスに移行し、大作作りが可能になっていきました。
地は、相変わらず石膏塗料が中心。
第2フランドル技法 (油)17世紀~ フランドル
ルーベンスなどの第2フランドルの技法は、下地に、明る目のグレーやオーカー系が使われた。
中間的な濃さのため、明るいほう、暗いほうへも描き進めるようになった。
以降の油絵技法は、ベネチア派と第2フランドル技法が原点となった。
現代絵画
技法や知識がなくても通用するのが、現代絵画です。様変わりしたものです。
キャンバスの地塗りはもとより、カンバスを張ったことも無い絵描きがいます。
デッサンもなく、基本的な技法も知らず、ただ絵の具をチューブから出し、キャンバスに塗りたくるだけ。
現代絵画は表現内容がメインなのだからそれでもいいのだろう!?
表現の自由さ、奇抜性がアートと言うのだろうか?
大した技術のない私が言うのも変だが、職人的な技量がなくて何がアーティスティックなのだ。
そうではない。表現内容だ、心だ、精神だ。心とか精神て何だ。そんなもの発信できるのか?
確かに、技法や技量の高いだけの絵は退屈だと常々感じている。私はいつもこの辺で揺れ動いている。
各種技法
◆インパスト
ルソーあたりからはじまったと思われる。絵の具を厚く盛り上げ絵の具そのもので迫力を出している。
レリーフのような絵さえある。
◆グラッシ
グレースともいい、古典的な技法です。不透明な絵の具である程度の調子を作りそのあと、
透明な絵の具を薄く塗り重ねていき、調子を整えます。
◆ヴェラツゥーラ
不透明な絵の具の重ね塗りで描いていきます。不透明絵の具といっても、
完全に下の色を隠ぺいしていまう訳ではありません。柔らかい調子に仕上がる傾向にあります。
◆フロッティ
画面の表面を油を少な目のした絵の具でこすっていきます。乾燥肌の絵肌になります。
◆スフマート
スフマートとは煙のことです。輪郭をの煙のようにぼかします。
◆スクラッチ
一度描いた絵の具を削り取っていきます。ナイフ、釘とか紙やすりで。
小学校の時、下に絵の具で色々な色に塗ったあと、クレパスで黒く塗りつぶしました。
その後、釘で絵を描いていったのもスクラッチです。
◆デカルコマニー
これも小学校の時やった記憶があると思います。画用紙に絵の具を載せ半分に折り重ねあわせ、
乾かぬうちに広げます。思いもかけぬ色や形になります。これが反転謄写、デカルコマニーです。
ローラーやスタンプで模様を描いていくのもこの一種です。
これで精神分析をすることもあるそうです。
◆ドリッピング
画面の上に絵の具をたらすことです。ポロックがその代表でしょう。
◆フロッタージュ
凹凸のある硬い物(例:葉っぱ)の上に薄い紙をのせ、鉛筆のお腹で紙をこすっていく。
すると、凸の部分は濃く、凹の部分は薄く塗られ、葉脈がみえてくる。
◆コラージュ
画面に新聞の様に文字がビッシリ欲しいとします。
絵がかずに、新聞を貼ってしまうのです。合理的ですね。くっつくものは何でも貼っているようです。
◆点錨
混色のところでも述べましたが、点々で描くことによって、目の中で混色させるものです。
◆ハッチング
ペン画の様に濃淡の出しづらい画材では線の密度で陰影を表現します。
その他には、金網ブラシ、ろうけつ染め方式、墨流し等、色々あります。
様々な技法は絵を描く上で武器になります。武器を持つと何が何でも使いたくなってしまいます。
使うのはいいのですが、武器の品評会みたいにならないように注意して下さい。
マティエール
マティエールだけを項目として設けたのは、書くことが沢山あるからではありません。
マティエールが重要だなと感じているからです。現代絵画はマティエール表現そのものだと言う人もいるくらいです。
マティエールは材料のことですが、画面の地肌と解釈した方がよさそうです。
画材屋さんで売っている、マティエール材は砂と貝殻抹です。方解抹もそうです。
絵の具と混ぜて溶けて変色しなければ何でもいいのでしょうが、混ぜることで絵の具の粘着力は弱まります。
アクリルの盛り上げ剤もマティエールです。マティエール剤を入れない絵はマティエールが無い絵なのですか?
無論そんなことはありません。キャンバスの目のデコボコや、筆のタッチ、ナイフの痕跡もマティエールです。
彩色されたキャンバスの目の谷に色を置くには、一度前面に塗って、山の部分の絵の具をナイフで取り除いてゆきます。
目の山に色を置くにはフロッティー技法を用います。この二つが同じ色になったとしてもマティエールは異なります。
乾性油と揮発油で描いたのでもマティエールは異なります。透明、不透明の絵の具の違いでも同様です。
色の三属性:色相、彩度、明度だけでも陰影、調子で物体の質感は出せます。
それとは違った、画面の感触が一つの属性として加わったと考えたほうがいいです。
デコボコ、ザラザラ、サラサラ、ノッペリ、ヌルット ボケ、タッチ、筆勢など触覚的な
ことをもマティエールと認識しています。
■ デッサン
デッサンはこのようなところで書きつくせるものではない。極々簡単に記述します。
デッサンは形を性格に写し取る意味もあります。ですが、本質は違うと考えています。
ものの要素を抽出するものと思っています。重力に従って存在する骨組みです。
例えば、左足で立てば、右肩が上がるという事実を把握することです。
洋画は三次元の世界を二次元の平面で表現しようとするもとがあります。
三次元とは縦、横、と奥行きです。光が当たれば陰が出来る。
光の当たった部分と陰の部分の二つに分けるのがデッサンと考える。
■ 画材について
基底材
支持体ともいい、紙やキャンバスのことです。絵の具を受け止めてくれるものです。 基底材の条件は、絵の具の食いつきが良く、剥がれない。そして発色がいいことです。 描きやすく、平面性、平滑性の要求されることがあります。それと保存性も大切です。
紙の種類
紙の種類は様々で、一番大きな分類は洋紙と和紙になると思います。 その一番の違いはパルプの繊維の長さによるでしょう。無論これだけではありませんが。 ここでは洋紙について説明します。
◆非塗工紙・・・表面に何も塗装しないものです。
◆塗工紙・・・・表面に塗装加工したものです。塗料の多い順から、アート紙、コート紙、微塗工紙。 表面を平滑にするためローラー加工することもあります。
◆上質紙・・・・化学パルプを使用
◆中質紙・・・・機械パルプを使用
◆下級紙・・・・古紙や機械パルプを使用
一般的な分類は以上の様です。絵のほうで次のようなものがあります。
◆木炭紙 ◆水彩紙 ◆版画用紙 ◆ケント紙 ◆画用紙 それぞれ用途がそれ専用という訳ではありません。
木炭紙の水彩画を描いても無論いっこうにかまいません。 最終的には使ってみて気に入ったものを選ぶしかありません。 目の荒いものや細かいもの、吸湿性の良いのとそうでもないもの、白いもの、黄色っぽいもの。
アングル、ラングトン、アルシュ、クラシュファブリアーノ、 ワトソン、MO紙(和紙を水彩画用に加工)、ミュウーズタッチ、ミューズケナフ(非木材パルプ) などメーカーにより色々出ています。 目の荒さによるタッチの感じ、絵の具の吸着はどうか、色のにじみ、吸湿性、こすっても剥がれないかの表面の強さ、 などか紙を選ぶ基準になります。繰り返しますが自分のフィーリングに会ったものを自分で探すしかありません。
キャンバス
麻などの布を木枠に張、膠を塗り、さらに地塗りをしたものを絵画用のキャンバスといいます。 安価なキャンバスだと合成繊維のビニロンなどを使用しています。あまり安いものは避けたほうがいいでしょう。 布の繊維の太さの違いより粗目、中目、細目にわけられます。 キャンバスのこの目の違いは、マチエール同様最後まで画風に影響を及ぼします。 地塗りの種類により用途が分かれます。キャンバスは油彩画用とかアクリル画用とか水彩画、日本画とかに分かれます。 紙と同様に特定は出来ませんが、発色、吸着、剥離のことを考えれば無茶はしないほうがいいです。 市販の地塗剤としてはキャンゾールとかジェッソがあります。
平滑な支持体を欲する作家は、ベニヤ板にラッカーパテを塗布し、サンドペーパーで研磨しキャンゾールを塗る方法をとる人もいます。 また、市販のキャンバスをサンドペーパーで研磨した後に地塗りをしていく人もいます。 地塗りとかキャンバスの目の荒さとかもおろそかに出来ません。 いずれにしてもここでも自分に合ったものを見つけていくしかありません。
絵の具
絵の具には色にするものが必要です。石器時代の人は色の付いた土や木の実を用いたのでしょう。 昔から土や鉱物を粉砕し顔料としていました。今では、金属を人工的加工し作り出しています。 色の元となるのは顔料(Pigments)と染料(Dye)です。 この二つの違いは顔料が色を持っているのに対し染料は化学変化を起こして色になります。 また粒子の大きさは染料の方が小さく、顔料の千分の一です。染料は溶解性がありインクとなる。
絵の具の種類
絵の具は顕色材(顔料とか染料+体質顔料:ボディー)と展色剤とで作られています。 展色剤はバインダーとかビヒクルとか媒剤(メジューム)とか言われています。 絵の具の種類はこのメジュームによってきまります。顔料、染料を何で溶いたかです。 添加物には界面活性剤とか防腐剤とか乾燥促進剤などが入れられています。
- フレスコ画(なし)
- テンペラ(卵黄+酢+水)
- 油彩絵の具(乾性油+可塑剤)
- アクリル絵の具( ポリアクリル酸エマルジョン)
- 水彩絵の具(アラビアガム+水)
- 日本画(膠+水)
- パステル(極少量のアラビアガム)
- クレヨン(硬化油+ワックス類)
- 鉛筆(油脂+ワックス類)黒鉛と粘土を焼成
- 色鉛筆(粘土ワックス)
- 木炭(なし)
- カラーインク(水)
- マーカー(水、アルコール)これもインクである。水溶性染料、油性染料をフェルトに浸しただけである。
顔料の種類
無機顔料 天然無機顔料・・・土系顔料、焼成土、鉱物性…..
合成無機顔料・・・酸化物顔料、炭素顔料、硫化物顔料、水酸化顔料…..
有機顔料 天然有機顔料・・・植物性顔料、動物性顔料…..
合成有機顔料・・・アゾ顔料、染付けレーキ…..
レーキとは体質顔料を染料で染めたものです。 天然の顔料であるものを合成で作ることもあります。例)イエローオーカーは土系顔料ですが、水酸化顔料でも作られています。 絵の具の名前を調べると、その組成が分かります。 ロー(生)アンバーは水酸化顔料でバーント(焼き)アンバーは焼成土です。 コンポーズは組成ではありません。既成の絵の具を混ぜたものです。
◆白の絵の具のこと
・シルバーホワイト:古典的な白です。鉛白が主成分なので混色制限と毒性がありますが、使い易いです。
・ジンクホワイト:亜鉛が主成分です。混色制限もなく、透明感もあり混色もし易くいいのですが、下地にしたり厚く塗ると亀裂が生じる欠点があります。
・チタニウムホワイト:チタン白が主成分です。何の制限も無く下塗りから、上塗りまで使えます。ただ白色力と隠ぺい力が強いのでやりづらい時もあります。
・パーマネントホワイト:チタニウムホワイの隠ぺい力を抑えたのがこの絵の具です。パーマネントとは美容院でのパーマと同じ「いつまでも」と言う意味です。
油彩具の溶剤の種類
・乾性油=リンシード(亜麻仁油)、ポピーオイル(芥子?)、サフラワー(紅花油)、ウォルナット(胡桃) 乾性油は空気中の酸素と酸化重合し、固まります。固まると強靭な皮膜となり顔料を保護します。 市販の絵の具には、一般的にリンシードが用いられています。白色絵の具には、黄変しないポピーオイルを使います。
・揮発油=ペトロール、筆洗油 油が蒸発して乾燥します。描き始めの段階や、絵の具の粘度を下げるときに少し使います。
筆の種類
◆形の種類
・平筆(フラット)・楕円(フィルバート)・丸筆(ランド)
・扇形(ファン)
◆材質の種類
・豚・馬
・狸・イタチ・リス
・猫・セーブル=中国、ロシアの黒てん(コリンスキー=アジア系ミンク種の赤てん)(レッドセーブル)・海綿、スポンジ、人工ポリエステル、人工天然の混合、指先
用途は限定されてないが、自ずと決められてくる。粘性の強い絵の具には腰の強い豚毛とかに。 筆の良し悪しは、穂先のまとまり、腰の強さ、絵の具の含みで決まるだろう。 天然の毛は一本一本が毛先にいくに従い細くなったり、枝毛で含みがよくなるものがある。
ナイフの種類
・パレットナイフ・・・・・・パレット上で色を混ぜたり、掃除をします。
・ペインティングナイフ・・・筆と同じように絵を絵を描きます。鋭く、強く、切れのいい画面を作ります。
・スクレーパー・・・・・・・画面上の不要な絵の具を削り取ります。よく研いでおかないと剥離してしまいます。
その他
画材はこういうものを使わなくてはなりません。と言うことは決してありません。 何もかもが画材になり得ます。例えば、使い古しの歯ブラシだって、立派な筆になります。割り箸を尖らし先を解せば葦ペンです。 アルミホイルをクシャクシャにしスタンプのように使えばパターン模様が描けます。コラージュとして使った古新聞も画材です。 炎で焦がしていって絵を描く民族もいましたね。そうそう、焼印だって画材ですね。 身の回りに画材になりそうな物は沢山あるはずです。固定観念に囚われず、新しい画材を見つけて下さい。 そのことが新しい作風の発見にもつながることがあります。 今の世の中、新たな画材が出現しています。 製版用の硬調なフィルムは二階調の画像をつくり、それを版画に利用する。 エアーコンプレッサーのエアーブラシが柔らかなグラデーション表現を可能にした。スパーリアリズムはこれを活用した。 コピー機によるコピーの繰り返しで、画像の劣化を意図的に作り出す。コピー機も画材です。 コンピュターによるコンピュターグラッフィク。コンピュターが画材です。 写真の世界で化学的に行っていた、ポスタリゼーションやソラリゼーションをCGはいとも簡単に作り出してしまう。 コンピュターの活用でますます新しいことが起きるだろう。 宮崎監督の「千と千尋の神隠し」は韓国とネットで共同作業で制作したそうです。新たなプロセスです。
以下、独り言です。 コンピュターのデジタルな世界も素晴らしい。 だけど、アナログ的な手作業の歪みと言うか稚拙さと言うか不完全さが温かみを醸し出しているのではないだろうか? ぶきっちょにコツコツと不便さを道連れに制作してゆく。 手作りっていいよね・・・と思いたい。